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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)2060号 判決

原告

藤田まつ子

ほか一名

被告

森永牛乳関西販売株式会社

ほか一名

第一主文

一、被告らは各自、各原告に対し、五二九、九二七円および内金四四九、九二七円に対する昭和四一年九月二日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

四、この判決一項は、かりに執行することができる。

第二原告らの申立て

被告らは各自、各原告に対し、七九七、〇〇〇円および内金六九七、〇〇〇円に対する昭和四一年九月二日(本件事故翌日)から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第三争いのない事実

一、死亡交通事故発生

とき 昭和四一年九月一日午後六時五〇分ごろ

ところ 大東市大字赤井八二番地先路上(横断歩道上)

事故車 軽四輪貨物自動車(六大阪あ〇三一五号)

運転者 被告堤

死亡者 藤本セイ(当時七六才、平均余命七・五年)

態様 東から西進中の事故車が、横断歩道上を北から南へ横断中のセイに接触して転倒させ、ために同女は頭蓋低骨折で二時間二五分後に死亡した。

二、事故車の所有と被告らの関係

事故車は被告会社の所有であり(以下これを被告車という)、被告堤は被告会社の従業員である。

三、自賠責保険金の原告らに対する支給 三八〇、八四九円

第四争点

(原告らの主張)

一、被告らの責任原因

(1) 被告会社(自賠法三条)

前記第三の一、二の事実。被告堤は被告車を運転し、被告会社の業務たる牛乳の運搬・販売に従事していた。

(2) 被告堤(民法七〇九条)

前方の横断歩道を横断中の亡セイを認めたが、同女が横断を中止するものと軽信してそのまま進行した過失により、急いで横断しようとした同女に接触して転倒させた。

二、亡セイの損害

(1) 逸失利益 六七六、〇〇〇円

高令であつたが、甥の経営する株式会社福山精密工作所の工場に炊事婦として住込みで働き、死亡前一年間の金銭所得は二二五、八〇〇円であつた。しかし、食費および住居費は全部会社が負担していたので、右所得から支払われる生活費は年間三六、〇〇〇円程度であつた。推定可働年数を四年として、左記算式により算定した。

(算式)

(二二五、八〇〇円-三六、〇〇〇円)×三・五六四(年利五分、四年のホフマン係数)

(2) 慰謝料 一、〇〇〇、〇〇〇円

三、原告らの代襲相続 各八三八、〇〇〇円

亡セイは明治二三年五月八日、藤本勇蔵・同ヒデの二女として生まれたが、同四二年八月一二日横田正博との間に赤井キクヱを生んだ。キクヱは事情あつて赤井コンの私生子として同女の戸籍に入れられ、その後藤田定男との間に原告らを生み、昭和一二年三月右定男と正式に婚姻したが、同一四年三月一三日死亡したものである。

そして、亡セイにはキクヱ以外に子はなくキクヱが唯一の相続人となるべきところ、同女は右のとおり死亡しているので、キクヱの子たる原告らが亡セイの前記損害賠償請求権を二分の一ずつ代襲相続した。

四、原告らの損害(各二分の一)

(1) 葬祭費 九九、〇〇〇円

(2) 慰謝料(予備的)一、〇〇〇、〇〇〇円

亡セイは原告ら幼少の折り母が死亡したので母親代わりとなつて原告らの面倒を見て育てた。したがつて、実際には母子のような情愛でつながれていたものであるから、もし亡セイの前記慰謝料請求権の相続が認められない場合は、原告らにおいて亡セイの死亡により受けた苦痛の慰謝料を請求する。

(3) 弁護士費用 二〇〇、〇〇〇円

五、本訴請求

原告ら各自において、以上合計九八七、五〇〇円から前記保険金の二分の一たる一九〇、四二五円を前記葬祭費および逸失利益から控除した残額内金七九七、〇〇〇円および弁護士費用を除く六九七、〇〇〇円に対する前記遅延損害金。

(被告らの主張)

一、被告らの無責

(1) 被告会社の非運行供用者性

被告堤の事故前の行動はつぎのとおりであつて、本件事故は同被告が私用のために被告車を運転中に惹起したものである。

(イ) 被告堤の被告会社における事故当日の勤務は午後四時に終了した。

(ロ) 被告堤は午後五時前、会社を出て被告車を運転して帰宅し、午後五時半ごろ自宅に帰着した。

(ハ) その後入浴し、また夕食もすませた。

(ニ) ところがその後、被告堤の妻との間に同人らの伯母宅を訪問しようという話がもちあがり、右伯母は大阪市北区天神橋六丁目付近に居住しているので、被告車を運転して行こうということになり、その途中において事故を起こした。

右に明らかなように、本件事故時において、被告堤は被告会社の業務のために被告車を運転していたのではないことはもちろん、出勤や退社のように被告会社の業務と関連する目的のために運転していたものでもなく、全面的に被告堤個人の私用のために運転していたものであるから、このような場合、被告会社が被告車の運行供用者としての責任を負ういわれはない。

(2) 被告堤の無過失と亡セイの過失

本件事故の状況はつぎのとおりである。

(イ) 被告車は東から西へ進行していた。

(ロ) 亡セイは本件事故現場付近道路を北から南へ向かい、西から東へ進行する車の間を縫うようにして小走りに横断しようとした。

(ハ) 被告堤からは、亡セイの姿は西から東へ進行する対向車の陰に隠れて見えなかつた。そして、同女が道路を五分の二ほど渡り中心線近くに至つたとき、はじめてその姿を認め、ブレーキを踏むとともに、同女に接触しないようハンドルを左に切つた。

(ニ) ところが、亡セイは、もともと東進車の間を縫つて小走りに横断するという無謀な方法をとつていたため、もつぱら東進車の来る方向に目を奪われ西進車の存在に注意せず、そのまま小走りで中心線を越えて横断しようとしたため、ちようど自分から被告車に飛び込む形で同車に接触転倒した。

右のように、本件事故は、被告堤がブレーキを踏み、かつ亡セイと接触することのないよう左へハンドルを切つたにもかかわらず、亡セイが西進車の存在にまつたく注意を払わず、しかも小走りでみずから被告車の方向へ突つ込んでくるという自殺的行動に出たことから生じたものであつて、被告堤の責めにもとづくものではない。

二、原告らの身分関係

かりに、事実上の親子関係が原告らの主張どおりであるとしても、戸籍上は亡セイと原告らの間になんらの親族関係のないこと明らかである。すなわち、原告らの母である赤井キクヱの母は、戸籍上はあくまで赤井コンであつて、亡セイは無関係である。

したがつて、原告らが亡セイとキクヱの間に母子関係が存在すると主張する以上は、コンとキクヱの間に親子関係が存在しないことを確認する旨の裁判を経て、正当な手続きによりキクヱの母が亡セイである旨戸籍を補正することが前提というべきである。かかる補正がなされないかぎり、たとえ証拠によつて原告ら主張どおりの身分関係が明らかにされたとしても、戸籍の記載を無視して一般民事訴訟で右事実を認定することはできないというべきである。

三、自賠責任保険金は、前記三八〇、八四九円のほかに一一六、一五〇円、合計四九六、九九九円が原告らに支払われている。

第五証拠〔略〕

第六争点に対する判断

一、被告らの責任原因

(1) 被告会社(自賠法三条)

被告車が被告会社の所有である以上、一般的抽象的に、同車に対する運行支配とこれによる運行利益は被告会社に帰属するものと解すべきであるから、右支配と利益の喪失を肯認するに足る特段の事情がないかぎり、被告会社は被告車の運行供用者たる地位を離脱しないものというべきである。

被告会社は、本件事故は被告堤の私用運転中に発生した旨主張するが、〔証拠略〕によると、被告堤は被告会社の牛乳配達等のため日ごろから被告車運転の業務に従事し、かつ被告車を通勤用に使用することを許されていたことが認められるので、たとえ被告会社の主張するような私用運転の事実があつたとしても、それだけでは、いまだ被告会社の被告車に対する前記一般抽象的な運行支配と運行利益の喪失を肯認するに足らず、他に右喪失の事実を認めうる証拠はない。そして、本件事故発生につき被告堤に後記過失が認められる以上、被告会社は被告車の運行供用者として、右事故による損害を賠償すべき義務を免れない。

(2) 被告堤(民法七〇九条)

〔証拠略〕によると、被告堤は時速約四〇キロメートルで幅員一一メートルの道路左側中央部を西進し、前記横断歩道の手前約二五メートルの地点にさしかかつたさい、対向車両の前照灯にげんわくされたがそのまま進行を続けたため、右横断歩道上を右から左に向かつて小走りで横断すべく、すでに道路中央付近まで進出していた亡セイに気づかず、同女と約七メートルに接近してはじめてこれを認め、危険を感じてハンドルを左に切るとともに急ブレーキを踏んだが及ばず、被告車前部を同女に衝突させてはね飛ばしたことが認められる。

とすると、被告堤としては、対向車の前照灯にげんわくされたとき、ただちに停止するか徐行して視力の回復を待つたうえ進行を継続し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、従前と同速度のまま進行を続けた過失により右事故を起こしたものと認められる。

二、亡セイの損害

(1) 逸失利益

(イ) 職業 株式会社福山精密工作所炊事婦(住込み)

(ロ) 年間収入 二二五、八〇〇円(死亡前一年間)

(ハ) 年間生活費 一一二、九〇〇円(収入の半分)

(ニ) 推定可働年数 三年(前記平均余命の約半分)

(算式)

一一二、九〇〇円×二・七二三二(年利五分、三年のライプニッツ係数)=三〇七、四四九円

(〔証拠略〕)

(ホ) 過失相殺(一〇パーセント)

前認定の事故発生状況(一、(2))から判断すると、亡セイは横断を急ぐのあまり西方にのみ気を取られ、東方に対する注意を怠つたまま小走りで道路中央を越えたものと推認されるので、右事故の発生については亡セイにも過失があつたものとして、右程度の過失相殺をなすのが相当である。よつて、右逸失利益中被告らの賠償すべき額は二七六、七〇四円となる。

(2)慰謝料 一、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。

(〔証拠略〕)

三、原告らの代襲相続 各六三八、三五二円

〔証拠略〕によると、つぎの各事実が認められる。

(1) 亡セイは明治二三年五月八日、藤本勇蔵・同ヒデの二女として生まれたが、戸籍上は死亡するまで未婚者となつている。

(2) 赤井キクヱは明治四二年八月一二日に生まれた赤井コンの私生児として戸籍上記載されている。

(3) 藤本徳次は明治三六年三月三日、前記勇蔵・ヒデの三男として生まれた者であるが、父勇蔵から「セイは明治四〇年ごろから西田正博と約二年半ばかり内縁関係にあり、二人で大阪砲兵工廠に勤めていたが、西田が呉市の工廠に転任することとなり一旦同行したものの、自分が結婚を許さなかつたため別れて単身帰阪した。まもなくセイはキクエを生んだが、私生子として藤本の戸籍に入れることができなかつたため、近所の赤井コンにその養育を依頼するとともにコンの子として届け出て貫つた」旨聞いていた。

(4) キクエは昭和一二年三月一一日、藤田定男と婚姻の届出をしたが、その前から内縁関係にあり、昭和六年一月二二日原告まつ子を、同九年三月一二日原告唱子を生んでおり、原告らは両親の右婚姻と同時に嫡出子となつた。

(5) キクエは右のようにして原告唱子を生んだのち体調を悪くし、三年ばかり病床にあつて昭和一四年三月一三日死亡したので、原告らのほかに子はない。

(6) コンは昭和三四年に死亡したが、その生前、亡セイとの間で「原告らはセイの孫であつても育てたのは自分であるから、自分の面倒をみさせる」などと争うことが多かつた。

(7) 原告らは亡セイと同居したことはなく、前記定男やコンのもとで育てられたが、亡セイから時どき小遣銭を貫つていた。

以上認定の(1)、(2)、(3)、(6)、(7)の各事実を総合して判断すると、赤井キクエは亡セイの唯一の実子であると認めるのが相当であり、この認定の支障となりうる証拠はない。

そして、原告らが右キクエの嫡出子であり他に兄弟姉妹のないことは、右認定のとおりであるから、原告らはその主張のように、亡セイの前記損害賠償請求権を二分の一ずつ代襲相続したものといわなければならない(なお、前記慰謝料請求権の相続が認められることについては、最判昭和四二年一一月一日民集二一巻九号一ページ以下参照)。

被告らは、前記戸籍の記載を無視してこれと異なる身分関係を一般民事訴訟で認定することはできない旨主張するが、まず母と非嫡出子間の法律上の親子関係は、原則として、母の認知をまたず分べんの事実により当然発生するものと解すべきところ(最判昭和三七年四月二七日民集一六巻七号一二四ページ以下)、本件のように他の私生子として虚偽の出生届がなされたと認められる場合は、右原則の例外たりえないと解するのが相当であるから、亡セイによるキクエの出生届は単に報告的届出の意味しかなく、かかる届出が戸籍上記載されていなくても、右出生にもとづく法律上の母子関係の存在を認定しうるというべきである。

また、戸籍は身分関係を公証登録する公簿であり、その記載には真実性の推定力が認められるけれども、それ以外の身分関係の存在をすべて否定するものではないから、右記載と異なる身分関係の存在を認定することも場合によつては可能といわなければならない。

四、原告らの損害(葬祭費)九九、〇〇〇円(各二分の一)

右は〔証拠略〕により認めるが、前記のとおり一〇パーセントの過失相殺をすると、八九、一〇〇円が被告らの賠償額となる。

五、賠償責任保険金の支給等

(1) 自賠責保険金の原告らに対する支給額 三八〇、八四九円(前記第三の三)

(2) 被告堤の支弁

(イ) 葬祭費 八五、一〇〇円

(ロ) 治療費 三一、〇五〇円

(〔証拠略〕)

六、原告らの損害賠償請求権残額 各四四九、九二七円

(1) 相続分(前記二、三) 各六三八、三五二円

(2) 固有分(前記四) 各四四、五五〇円

(3) 控除分(前記五、(1)、(2)(イ))各二三二、九七五円

七、弁護士費用 各八〇、〇〇〇円

(〔証拠略〕)

八、結論

被告らは不真正連帯債務の関係で、各原告に対し、五二九、九二七円および弁護士費用を除く内金四四九、九二七円に対する昭和四一年九月二日から支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延義務がある。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

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